競売の3点セットの読み方 — 鑑定士はここを見る
競売物件は「安い」のではなく、「安い理由が3点セットに書いてある」。価格の骨格と、種別ごとに必ず見る欄を1枚にまとめました。物件ごとの判定はしません。読む順番と見る場所の話です。
13点セット=誰が何を書いた書類か
物件明細書
裁判所書記官が作成
買受人が引き継ぐ権利・負担が書かれたいちばん重い書類。「買受人が負担することとなる他人の権利」「物件の占有状況等に関する特記事項」の2欄は必読。ここに何か書いてあれば、それが価格を下げている本体です。
現況調査報告書
執行官が作成
現地に入って見た事実。占有者は誰か・賃貸借の有無と賃料・敷金・鍵の有無・写真。評価書の「占有減価」の根拠はここにあります。
評価書
評価人(不動産鑑定士)が作成
売却基準価額の算定過程。通常の市場価格から、どの理由でいくら引いたかが層になって書かれています。次の章の見方が本題。
2評価書の骨格=価格は「層」でできている
上から下へ、価格が削られていく順番。②は市場全体の減価(物件の良し悪しではない)、③は物件ごとの減価。③の厚さが「安い理由」の正体。数字は例。
①基礎となる価格(通常の市場での価格)
土地は取引事例・公示地価等、建物は再調達原価と経年減価。この段階では一般の売買と同じ物差し
②競売市場修正(おおむね▲30%前後)
競売特有の事情=内覧できない・契約不適合責任がない・引渡しは自力・情報が3点セットだけ、を一律に織り込む減価。「安く見える」の大部分はここ
③個別の減価(占有・権利・法規制)
占有者がいる/借地権や法定地上権が付く/再建築できない/マンションの管理費滞納を引き継ぐ 等。ここが厚いほど「安い理由が個別にある」物件=落札後の手間とコストに直結
=評価額 → 売却基準価額裁判所が評価書をもとに定める。買受可能価額=売却基準価額の8割(入札できる下限)、買受申出保証金=売却基準価額の2割
読み方のコツ:②は市場全体の減価なので物件の良し悪しではない。見るべきは③の中身と厚さ。③が薄くて②だけで安い物件は「競売だから安い」、③が厚い物件は「安いのに理由がある」。競売ウォーカーの「落札倍率」は、この地域で③をどう織り込んで入札しているかの結果です。
3種別ごとに必ず見る欄
土地
- 接道と再建築 — 現況調査の写真と評価書の「公法上の規制」。接道義務を満たさない・セットバック・私道負担があれば③で大きく減価されている
- 地目と農地法 — 農地は買受に許可・届出が要る(買受適格証明)。競売ウォーカーは農地フラグを表示
- 建物が別事件・別所有 — 土地だけの競売に他人の建物が建っていれば法定地上権や借地権が付く。物件明細書「他人の権利」欄
- 面積は公簿か実測か — 評価書の面積の根拠。境界未確定・越境は現況調査の写真と聴取に出る
戸建て
- 占有者と引渡し — 現況調査「占有者」欄。所有者以外が占有・賃貸借あり・敷金の承継。引渡命令の対象になるかを物件明細書で確認
- 未登記建物・付属建物 — 売却対象に入っているか。「売却外物件あり」は買受人のものにならない建物がある合図
- 築年と構造の減価 — 評価書の建物価格。木造の築古は建物価格ゼロ近くまで落ちていることが多い=土地値で入札額を考える物件。ただし帳簿の残存がゼロでも、市場ではまだ家賃を生む年数(Z年数)が残っていることがある → Z年数を簡易試算(築年と所在地だけ)
- 越境・共有・持分 — 持分の競売は特に注意(共有者との関係が残る)。競売ウォーカーの「公示比」が極端に低い土地はこの類が多い
マンション
- 管理費・修繕積立金の滞納額 — 買受人が引き継ぐ(区分所有法8条)。評価書に滞納額と減価が明記される。落札額に上乗せして考える
- 占有と賃借人 — 現況調査。賃貸中なら賃料と敷金、引渡しの手順
- 管理状態と大規模修繕 — 現況調査の写真・管理人聴取。積立金の水準は将来コスト
- 敷地権と駐車場 — 敷地権が付いているか、駐車場は専用使用権か
4読む順番(5分版)
- 物件明細書の2欄(他人の権利/占有の特記事項)を先に読む。空欄なら大きな地雷は少ない
- 現況調査の占有者欄と写真で「誰が住んでいて、どう引き渡されるか」を掴む
- 評価書の最後の計算表で、②競売市場修正と③個別減価の内訳を見る。③の項目名を全部読む
- 競売ウォーカーに戻って、その裁判所の落札倍率(半数が収まる幅)と、公示比/利回り目安を並べる。入札額を決めるのはあなたですが、比べる材料はこれで揃う
5競売と公売の違い
競売ウォーカーには、裁判所の競売と、国税庁・自治体の公売が並んで出ます。どちらも「安く出てくる不動産」ですが、根拠法も、価格の意味も、買ったあとの引渡しも別物です。
| 競売(裁判所) | 公売(国税庁・自治体) |
| 誰が売る | 債権者の申立てで裁判所が売る(民事執行法) | 税金の滞納で差し押さえた財産を行政が自分で売る(国税徴収法)。裁判所は関与しない |
| 判断材料 | 3点セット(物件明細書・評価書・現況調査報告書)=評価の内訳まで出る | 公告と物件ページの説明・写真だけ。評価の内訳は出ない=周辺の実勢と自分の見立てで埋める |
| 入札の下限 | 売却基準価額の8割(買受可能価額) | 見積価額そのもの(8割の考え方はない) |
| 保証金 | 売却基準価額の2割 | 見積価額の1割以上(国税徴収法100条)。カード納付できる機関もある |
| 入札前の手続 | なし(期間内に入札書を出す) | 自治体(KSI)は参加申し込みが入札期間より前。逃すと入札できない=カードの「申込〆」 |
| 占有者の引渡し | 引渡命令(民事執行法83条)で出せる場面がある | 制度なし。明渡しは自分で(話し合いか訴訟)片づける前提で値付け |
| 農地 | どちらも買受適格証明書(農業委員会)が要る |
| 担保責任 | どちらもなし。土壌汚染・地中埋設物・境界は自分で確かめる |
| 内覧 | 内覧制度はあるが実施は少ない | 原則は外からの確認。下見会を設ける機関もある |
| 件数 | 全国で千件台(常時) | 全国で百件台。数は少ないが競合も少ない |
公有財産売却(自治体が自分の持ち物=旧学校跡地・分譲宅地などを売るもの)は滞納処分ではなく、下限は予定価格。KSI官公庁オークションでは公売と同じ画面に並ぶため、競売ウォーカーでは出所バッジで区別しています。
いちばん効くのは引渡し:競売は落札後に引渡命令で占有者を出せる場面がある。公売にこの制度はないので、占有者がいる公売物件は明渡しの手間とコストを織り込んで値付けする必要があります。
探すときの順番:件数は競売が圧倒的に多く、公売は全国で百件台。公売は「数は少ないが競合も少ない」のが実態です。競売ウォーカーの出所チップで「公売」だけに絞ると、いま全国で入札できる公売物件が一望できます。
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このページは3点セットの一般的な構造と読み方、および競売と公売の制度上の違いの整理で、特定物件の価格判定・入札額の推奨ではありません。競売市場修正の率、減価の項目、手続(買受適格証明・引渡命令・管理費の承継・公売保証金の率や納付方法・参加申し込みの要否等)は事件・裁判所・執行機関・時期により異なります。必ず当該事件の3点セットの原文(公売は執行機関の公告と物件ページ)と、必要に応じて裁判所執行官室・執行機関・専門家にご確認ください。本ページは公開情報の閲覧補助であり、投資助言ではありません。
制作:鑑定さん(不動産鑑定士監修)